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東京地方裁判所 昭和40年(ワ)7681号 判決

原告 株式会社泰山堂

右訴訟代理人弁護士 尾崎行信

同 花岡巖

被告 財団法人電気通信共済会

右訴訟代理人弁護士 柳井忠光

主文

被告は原告に対し金三二七万五九三九円及び内金二六五万三八六四円に対する昭和三八年九月一一日より、内金六二万二〇七五円に対する同年一〇月一一日より夫々完済迄年六分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

本判決は原告勝訴の部分につき金四〇万円の担保を供するときは、仮にこれを執行することができる。

事実

〈全部省略〉

理由

(請求原因第一について)

原告が薬品類の販売を営む会社であることは、当事者間に争いがない。〈省略〉によれば、訴外中村迪子は横浜市中区山下町所在の電々ビル六階の売店において、夫の訴外中村是徳や訴外伊藤恵治と共に「電気通信共済会売店薬品部」や「電気通信共済会薬品部」の名称を使って、薬品の小売り販売をしていたものであるが、原告は右の中村迪子に対し代金は毎月二〇日締切翌月一〇日払いの約で別紙売買一覧表記載の通り、昭和三八年七月二九日より同年八月三〇日までの間薬品合計金四〇五万〇一二五円を売渡した事実を認めることができる。〈省略〉。

(請求原因第二について)

〈省略〉によれば、次の事実を認めることができる。被告は電々公社の職員の副利厚生のため、食品、洋品、薬品等日用品の販売又は販売の斡旋、厚生施設の運営等を目的として設立された財団法人であって、その目的のため、被告の横浜営業所にあっては、特別に電々公社より横浜市中区山下町所在の電々ビル六階の一部その他県下各地の電々公社関係の建物内の一部を提供して貰い、ここに食堂や売店を設けていた。右電々ビル六階の食堂は被告の横浜営業所の直営にかかるものであるが、同所の売店は業者に請負形式、即ち業者をして独立して仕入れ及び販売に当らしめる方法によって、日用品類を販売させていたが、販売品目、販売価格、営業時間等は被告においてこれを規制しており、これらの売店はすべて共済会売店と呼ばれていた。そして訴外中村迪子は、被告のかような売店運営の一環として、右電々ビル六階のほか横浜電話局、川崎電報電話局の計三ケ所で、公然と電気通信共済会売店薬品部又は電気通信共済会薬品部の名称で薬品類を販売していた。以上の事実を認めることができる。してみれば、被告の横浜営業所長以下係員が右の事実を知らない筈はなく、結局同人らは訴外中村迪子の右名称使用を黙認していたものと判断するのが相当である。

次に〈省略〉によれば、電々公社の職員は一般に、共済会売店は被告の経営するところと考えており、横浜電話局会計係長青木耕一も同様に考えていたところ、前記共済会売店薬品部の中村是徳より適当な薬品の仕入先の紹介を頼まれたので、かねて知合いの原告の社員金成鉱三に対し、電気通信共済会に薬品を納入してはどうかと勧めた。そこで金成鉱三は先づ青木の案内で、横浜電話局や電々ビルにある電気通信共済会売店薬品部の店を見て廻り、次いで被告の横浜営業所長外川寛を訪ねて挨拶し、納品についての諒解を得たので、その旨を原告の専務取締役金成幹寿に報告した。すると間もなく電気通信共済会薬品部次長の名刺を持った前記伊藤恵治が原告事務所を訪れ、交渉の末、業界でいうC価即ち最も安い割引値で売買すること、代金は毎月二〇日締切り翌月一〇日払いとすること等を定め、昭和三八年七月二九日より納品するようになった。次いで同年八月二日中村是徳のとりもちによって、電々公社ビル付近のバーにおいて原告側金成幹寿、金成喜郎、金成鉱三、被告側横浜営業所長外川寛、厚生施設係古谷野啓次郎と中村是徳が集まって顔つなぎの会合が持たれ、その席上外川より原告の業歴などを尋ねられた。かような関係で原告側の者は被告が取引先であることを少しも疑わなかった。そしてさきに認定した通り、昭和三八年七月二九日より同年八月三〇日まで別紙売買一覧表記載の通り、合計金四〇五万〇一二五円の薬品を中村是徳や伊藤恵治の注文によって電気通信共済会売店薬品部に納入した。以上の事実を認めることができ、右認定に反する証人外川寛の証言はたやすく措信できない。

以上の事実によれば、電気通信共済会売店薬品部ないし電気通信共済会薬品部の名称は、通常被告たる電気通信共済会の一販売部門を示すものと解されるから、被告が訴外中村迪子、同中村是徳及び同伊藤恵治ら三名において右の名称を用いることを黙認していたことにより、同人らが被告名義を用いて営業することを容認したものと謂うべく、而も前記経緯の下では、原告が本件取引の相手方を被告と信ずるにつき過失はなかったものと認められるから、被告は原告に対し買主と同様の責任に任じなければならない

尤も証人青木耕一の証言によると、かって青木耕一の口ききで、中村迪子が薬事法による薬品販売の許可を得たことが認められる反面、被告が右の許可を得ていないことは口頭弁論の全旨によって明らかであるが、原告が本件取引に当り、被告について右の許可の有無を調べなかったことを以て、必ずしもその過失とは考えられないし、許可を得た者が実際の営業主でないことは、世上往々あることであるから、青木耕一が電気通信共済会売店薬品部を被告の経営にかかるものと誤解した旨の証言を虚偽であると断じさることは躊躇されるものであって、結局前記判断を否定するに足りないものと謂うべきである。〈以下省略〉。

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